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2011年5月28日土曜日

MAすると株価が上がる方法〜EPS変動分析とモラル・ハザード〜



一般的にMAが起こると「買収対象企業側」の経営合理化が進むと捉えられたり、TOBに応じるプレミアム殺到で株価が上がる現象が見受けられる。

しかし今回はEPS変動分析をもとに、MAすると「買手側」の株価が自動的に上がる方法を2枚のスライドだけで簡単に紹介したいと思う。なんか魔法の様な話に聞えるかもしれないけれども、買手にとってのMerger Planとして、MA出来るか出来ないかを左右する意思決定の定量分析であるため、極めて明確なVisionary Criteriaを与えてくれる。なんとなく「俺が経営した方が良いし、対象会社好きだし、高くても買うよ!」とかの判断にならないで済むのだ笑

これらのEPS変動分析の効用を理解すると、買収資金の調達方法(株式or借入)によって大きく結果が変ることが分かるし、歴史的にも、独占禁止法の適用が厳格だった1960年代の事業コングロマリット化や、2000年頃のドットコムバブル(ワールドコムエンロン)にもみられた、「とにかくPERが低い企業を注目して株式交換による買収」が流行った理由が分かると思う。(このお話はDCFやマルチプル、リアル・オプションなどの話は出てこないので知らなくても大丈夫^^)


実務上、EPS変動分析のプロセス自体は、MAコンサルや投資銀行などFAのお仕事として、DD等Fair Valuationを終え「さぁ、ではその企業価値を踏まえて、結局いくらまでなら支払うのが妥当なのか?」というFairness Opinionを会計監査・法律事務所へ書かせたり、自前で書いてリスクを負う段階。DD評価がEPS変動分析評価より高いと、よっぽどのシナジーを生む公算がない限り、本来ならば買うべきではなく、株主から反対されたり訴訟されるリスクがある。勿論、FAとしてはGOをオススメするのだが...。
少なくともEPS変動分析なくしてFairness Opinionは書けない。売手のFAならまだしも、買手として絶対必須だ。(お断りとしてPEファンドによる買収など、上場会社でない買手にとってEPS変動分析は余り関係ないので注意してほしい。)

<前提>
  • 株価=PER×EPS(アタリマエ)
  • 買手PERは一定とする
  • のれん代償却は無視(IFRSでなくなる見込みだし)
  • 対象会社のP/LStand Aloneとする。(実務ではシナジー加味)

前提を踏まえて、株価が上がるには(予想)1株利益EPSが増加すればいいことになる。
ちなみにEPSが増えることをAccretion(アクリーション、日本語では...増加?笑)。減ることをDilution(希薄化)という。だからMAの際にDilutionであればよっぽどのシナジー説明材料がなければ株主が反対するのだ。

上図は、例としてStand Aloneの買手・売手のP/Lをもとに4つのケースで買収を試みる。
数字の単位は百万円でも億円、十億円でもなんでもいい。
  1. 対象会社を価格   600で株式調達による買収想定
  2. 対象会社を価格1,200で株式調達による買収想定
  3. 対象会社を価格1,000で借入調達による買収想定
  4. 対象会社を価格1,500で借入調達による買収想定

株式調達だと金利払いは変らず、株数が増えることに注意し、逆に借入調達だと株数は変らないで、金利払いが増えることに注意してΔEPSを計算してみる。
すると、株調達Case1と借調達Case3では丁度EPSが変らない0となり、それ以上の株調達Case2と借調達Case4ではマイナスのEPSとなることが見て取れるだろう。つまりこれ以上だと、PER一定だとして買手自社の株価が下がるということになる。

従って、株式調達でMAするなら600までが限界、 
借入調達でMAするなら1,000が限界ということが分かった。


以上をきちんと数値毎に離散シミュレーションしてExcelでまとめてグラフ化したのが上図。グラフを見て気付かれるかもしれないが、借入調達のプロットは線形である。ΔEPSの式を買収価格の関数として求めると本当に1次方程式なので各自確認してほしい。(また株式調達においては簡単な反比例の方程式となる。)さらに、それを各自確認出来れば、ΔEPS=0のときの買収価格が求まるので、純利益を割ったBreak Even PERも定まる。
実は、きちんと計算すれば、
B.E. PERとなる株式調達: 売手対象のPER=買手自社PERの時
B.E. PERとなる借入調達: 売手対象のPER=買手税引後金利の逆数(33.333倍)の時
となることを自分で確かめて欲しい。この数字はかなり直感・暗算として重要で、相手PERがとにかく33.3倍までなら借入でMAしようと決まるし、株式調達であれば自分のPERがB.E.なのだから、自分の株価(正確にはPER)を高く保つことがMA競争で勝つポイントにもなることが分かるし、売手対象会社側から見たら、"買収防衛"のためにもPERを高く保たねばならないことを示唆している。
ちなみに、ここにも一般的にコーポレートファイナンスにみられるような【株主資本コスト】>【負債コスト】の現象が見られるので、ちょっとした証明にもなるのではないだろうか。


以上からだと、なんとなく借入調達の方がハードルが低いように思えるかもしれない。ただ、常に借入調達がベストではないので注意して欲しい。買手PERが売手PER(=33.3%)よりカナリ高ければむしろ株式調達が良いことを、自分でExcel等でいじって確認してくれればと思う。



 以上を踏まえた上で、ただし書きをさせてもらうと、、
PERは予想純利益により算定されるので、買手が意図的に操作することもありえるので注意が必要である。これは"モラルハザード"の観点で重要なことだと思う。株式調達の場合、下方修正などで買手の予想純利益をわざと下落させると、買手PERが上昇する。売手PERが一定ならばAccretionがどんどん進んでしまうのだ。
「でも、下方修正で公で株価さがったら結局B.E.に下がるのでは?」と思われるかもしれないが、今期予想は言っても、来期・再来期予想は絶対言わないだろう。結局向う何年かのDDバリュエーションを基に計算されているのだ。社長が言っても、MAが終わる頃にはマーケットは評価を補正しているだろう。ましてや会議室での話なら誰にも知られない

この"誰にも知られず"にPERを上げてしまうことは中立的なMAという投資意思決定を阻害してしまう。
だからこそ、FAは職業倫理上「フェア」でなければならないのだ。



2011年5月25日水曜日

自分が信じる道

どんなに苦しくても、人よりどんなに時間がかかっても、自分自身で通過しなければ次のステージへ辿り着くことは出来ない。だから諦めたらダメなんですよ。紆余曲折してもいい、自分の歩む道だという自覚と進むべき明日を想って行動し続ける。どの業界にも"頂上"に登り詰めた人たちは必ずそういう人。less than a minute ago via HootSuite Favorite Retweet Reply