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2011年6月20日月曜日

UFJH・MTFG vs STBC・SMFG(昔話)

ざっくり言うと、
“漢達に婚約を迫られた姫が、真の貴公子と結ばれるストーリー”
と、まとめられるだろうか?

200510月に起きたUFJホールディングス(以下UFJH)と三菱東京フィナンシャルグループ(以下MTFG)との統合は、金額規模と金融業界再編、それまでの買収攻防という観点において、非常にドラマティックな事例だと言える。 この事例は非常にデリケートだ。時代背景としては不良債権処理問題の傷跡・日本MAマーケットの黎明期・法律の不整備等々という頃。その意味で、現在で同じ判例が起きても同じ結果には成りにくい“古典でもある。たった10年もしない前の話であるのにも関わらず。。。




何故、UFJホールディングスは結婚相手を探し求めていたのか

そもそも2001年に旧三和銀行と旧東海銀行、旧東洋信託との合併で生まれたUFJH。実はこの合併によってダイエーへの合計融資額が突出して大きくなっていた。UFJHはダイエーなどの不良債権処理のために自己資本比率が削られる状況になってしまった。その結果、残念ながらUFJ銀行の20043月期決算における自己資本比率は、国際業務を営むのに必要な8%を下回る寸前まで低下。その後の利益回復が実現出来なければ信用不安を誘発する恐れもあった。
そこで当初、UFJHは信託部門を住友信託へ3,000億円で売却し、ひとまず自己資本比率8%維持し、同年秋に4,0005,000億円規模の増資を行う自力再建策を考えていた。



住友信託の思惑

住友信託は、既に公的資金を完済し財務状況も健全。メガ信託として業界の主導権を握るための「攻めの戦略」としてUFJ信託買収を検討していた。
2004年5月21日にUFJH信託部門の売却と共同事業化に関する基本合意書が締結された。
併せて、5月下旬からUFJHは大手証券会社を主幹事に指名して、水面下で増資の準備を始めた。



「やっぱり貴方じゃ私を救えないかも」

ところが2004年6月18日、金融庁によりUFJHに対して業務改善命令を発動されたことで、事態は急展開を見せることになる。この日から、UFJHはコンプライアンスに厳しい海外の機関投資家からの資金調達が困難となった。さらにもし金融庁が刑罰を求めていれば、事態はもっと悪化していたに違いないが、金融機関への処分は業務改善命令などの行政処分に止まっている(謎だが預金者保護だと思う)。少なくとも、このままでは住友信託への信託部門売却を経る自主再建は厳しくなった。



三菱東京との両想い

対してMTFGとの統合を選択する魅力とは、その豊かな財務力である。MTFGは、公的資金を完済している上、1兆5,000億円という豊富な剰余金を積み上げており、自己資本比率や不良債権比率も健全な水準であった。UFJHに注入されていた公的資金は、(統合してできる新グループとなれば)早ければ僅か1年間で、必要な剰余金を積み上げることができる計算だった。
MTFGとしての思惑は収益力とリテール強化。大企業比率が高いとされていた貸し出しポートフォリオの是正などが経営上の課題であるとされていた。
そうしてUFJHは、住友信託との統合をやめてMTFGとの統合を受け入れる。



怒れる漢

住友信託銀行は、当初基本合意書しか締結されていないにも関わらず最終的な売買合意があったと主張。UFJ信託を買収できていた場合の逸失利益として1,000億円の損害賠償を求めた。しかし、それは東京地裁判決で一蹴された(その前の独占交渉権を巡っても敗訴している)。
その理由は単純。独占交渉権はあくまで買収を交渉する権利であり、結果買収自体の成立を確約するものでないからだ。従ってその権利破棄による交渉権者の損害は、買収成立した場合に得られていたであろう事業上の利益でなく、せいぜいFAFeeぐらいがその範囲内なのである。

最終的に高裁提示の25億円支払で両社は和解合意。これは買収金額3,000億円の0.083%に当たり、欧米平均の3~5%より低いが、そもそも欧米での違約金は「最終契約」を破棄した場合のみなので、実際支払わなくてもよかったのではないか?とも思える。ただ、住友信託側が100億円前後での和解を水面下で打診したことをMTFG側が「金額の根拠が分からないし、株主に説明がつかない」と答えたのは至極当然だろう。(日経新聞20061122日)



三井住友FGの参戦

対して三井住友フィナンシャルグループ(以下SMFG)としては傍観出来ない状況だった。SMFGとUFJHとは関西地区を中心に店舗網が重複してシナジー薄だが、規模面でUFJHとの経営統合なくして他行に劣後してしまうという強い危機感があった。また同じ住友グループでありながら疎遠であった住友信託とUFJH統合についてアライアンスを組むことによるグループ再編をも画策していた。



SMFGのベア・ハグ作戦

ベア・ハグ:買収される会社の取締役が買収に反対だったとしても、高額な買収価格提示など、株主の利益上同意せざるを得ない様な買収の申し入れを出す。ここではSMFG8UFJHに対して行った統合申し入れを指す。

SMFGは、UFJHとの兼ねてからの直接交渉からUFJH株主を中心に統合メリットを訴える作戦に変更。SMFGが、UFJHの定時株主総会で、株主提案権を確保するために株式を一定取得したと発表。
しかし、残念ながらこのやり方では、一定の総会議題を提案することが出来ても、合併を総会議案として提案することは出来ない。両社ボードメンバー同士が締結する合併契約書の承認の形でしか、合併を株主総会に議題にすることが出来ないからである。
(では何故わざわざUFJHへの株主提案権を確保し、それを発表までしたのか?合併比率を明らかにしていなかったMTFGへの圧力かもしれないし、まさか罷免決議の提案まで考えていたのか?色々な憶測が生まれる。)

さらに、831日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に、「SMFGによるUFJH株式のTOBを準備中」と報じられたが、当時のSMFGには単独での資金調達が困難な金額であり、実現は難しかったと思われる。SMFGのFAであるGS背後にいるとの見方がされている。


対するMTFGのポイズン・ピル作戦の成功

ポイズン・ピル:ここではUFJ銀行がMTFGに対して行った優先株発行を指す。同優先株発行は、本当の意味での「ポイズンピル」ではない。

SMFGの提案に対するMTFGの対策は素早く、910日にUFJ 銀行の優先株式引受により7,000 億円の資本支援の実施を決定し、さらに同月29日に予定していた払込を同月17日に前倒しで完了。これによって、市場ではSMFGとUFJHの統合はなくなったとの見方が強まった。
UFJHが傘下の子会社(UFJ銀行)にMTFGを割当先に特殊な種類株式を割り当てた株式は拒否権付種類株式(会社10818号)を利用する黄金株である。
この優先株式の発行条件・付帯条項を含むことが可能だったのは、非公開会社であるUFJ銀行が増資主体であったからだ。仮に、「有利発行」に該当されるとしてもUFJBUFJHの完全子会社であり、優先株発行に当っては定款変更等のために特別決議を経ているので手続き上の瑕疵はない(勿論、MTFG側に課税受贈益が発生する可能性はあった)。
こうして上場会社であるUFJHではなく、非上場会社であるUFJBが発行する優先株に「UFJBの合併等につき種類株主総会で拒否権」を与えることによって、親密先(MTFG)を利用した新株予約権によらない種類株式によるポイズンピルを実現した。本件は日本では初めての事例とされる。




と、まぁかなり入り組んだ話ではあったが、UFJHがMTFGと統合出来たのは、「独占交渉権」を巡る裁判で勝ち取ったのと、非公開会社であるUFJBを発行体として「優先株式」が発行出来たということが大きいなと。。。金融庁のことは、知らない。


【参考文献】
「M&A最強の選択」服部暢達
「UFJvs.住友信託vs.三菱東京M&Aのリーガルリスク」中東正文
「日経新聞(20061122日)」
英フィナンシャル・タイムズ紙(2004年831


【使用データ】
日経NEED-FAMEデータベースにより上場廃止企業の株価をプロット

【備忘録】製薬業界のあれこれツイートまとめ

新薬創造といっても、もうモルモットでは実験しにくい難病だけが残されているという点で、生物化学界では困難な状況にある。だから医薬品業界のMAはファイザーモデルから、ブロックバスター系創薬が見込めるバイオベンチャーの争奪戦へ移行しつつある訳で、、less than a minute ago via HootSuite Favorite Retweet Reply



企業の効率的な経営合理化によって、予算や研究開発目的を意識し過ぎてセレンディピティ的創薬(心臓疾患の為のR&Dから偶然にもEDに効果を発見して発売されたバイアグラみたいな事例)が生まれにくくなる土壌となってしまったという功罪もある。less than a minute ago via HootSuite Favorite Retweet Reply



さらに、日本人口減少・高齢化→国家予算削減→医療費削減の中で「薬価」が最も手をつけやすい対象として世界比薬価のダウン率が高い。そうして日本政府は廉価なジェネリック医薬品を推進しているため、日本の医薬メーカーは否が応でも海外へ展開しなければ生き残れない状況に陥っている。less than a minute ago via HootSuite Favorite Retweet Reply



医薬品業界の「2010年問題」に見られたような、世界中の製薬企業が生み出した薬品は一斉に特許切れを迎えた。製薬企業各社の収益はジェネリックに喰われて激減してしまう。 未来は実績あるスピンアウト系ベンチャーに懸かっていると考えるのだけれども、果たして日本にその土壌があるのだろうか。less than a minute ago via HootSuite Favorite Retweet Reply