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2011年12月22日木曜日

新卒就活生向けアドバイス



ご無沙汰しております。新卒就職活動が活発化してきたので、今回も前回に引き続きその話題で、僭越ながら就活生向けアドバイスを...と思い更新しました。

今回は、企業セミナー訪問から面接に至るまでに自らが気を付けておくべき《視座》についてです。むしろ面接で充分ご自身を発揮されるために、企業セミナー訪問で何を意識して就活していくかという"逆算"の考え方です。

まず面接について
 時として面接のやり取りの中で突飛な質問もあるかと思われますが、どんな会社でも主に2つを幹とした質問しかされません。
それは...
  1. あなたは何者なのか?
  2. 何故あなたは当社で働きたいのか?
だけです。

【1】を細かくプルダウンすれば「学生時代に頑張った事」とか「自己PR」、「日々の活動(サークル・ゼミ・ボランティア・体育会・趣味)」について聞かれる事と同じ類のものです。ご自身がどんな生産的な活動をされてきたのかが問われます。面接では、いかに自分自身を正確に伝えられるかということが大切。その時に何を伝えれば良いのかが分からないと意味がありません。

【2】については「志望動機」なり「他社との差別化」であったり「何故この業界で且つこの会社か?」という質問に繋がります。【1】のように自分がどんな人間であるかを分析すると、さらにどんな仕事がしたいのか、どんな会社に入りたいのかも見えてきます。会社セミナー訪問で情報を得ながら、自分の考えをしっかり把握した上で選んだ会社ならば、入社後も自信を持ってやっていけるはず!また業界の詳しい知識(特に金融)について不安がる方も多くみられます。そういう知識はある方が無いより好ましいのですが、面接のやり取りの中で採用側が見ているのは知識面よりも、ご自身の【1】や【2】を話す内容から...
  • 仕事を習得し成長していけるポテンシャルがあるか
  • 一緒に働きたいか
の2点しか抽出されません。そこを忘れずに。

会社セミナー訪問について
 最初に言及したこの2つを幹とした質問に、きちんと自分なりに答えられるかが重要です。【1】の「あなたは何者なのか?」はあなたが今からすぐにでも行える事。けれども【2】については「難しい...」と悩まれる学生さんが多く見受けられます。そこで企業訪問で自ら意識すべき視座が必要になってきます。
会社選びで"見極めるポイント"は3つ。
それは...
  • ビジネス面
    - 事業フィールド、他社との競争力、成長性等
  • 人材面
    - どんな局面でも志を維持し続けながら働けるか否か
  • 環境面
    - 自身がその会社でバリバリ働けるイメージがつくか否か

です。
何故3つなのかは単純な理由です。会社とは「"仕事"をしている"人たち"が集まっている""」であると定義すれば、必然と、良い会社とは《良い仕事》《良い人材》《良い環境・場》の軸で評価出来るからです。勿論、これら3つは独立的な軸ではなく互いが複合している要素もあり、自分なりに定義・解釈した上で評価するのが一番大変です。また人それぞれ違うと思われます。ただし、3つの中でも一番肝心なのは「自分がそこで働いている姿」がどんな姿かをイメージしながら色々会社訪問することだと思います。逆に面接では、あなたが会社でバリバリ働いている姿が想像出来るかを面接官が見ています。せっかくイメージ出来ているのに、それを伝えられなければ元も子もありません。

 就活生のさんに僭越ながらアドバイスしたいことは、とことんキャリア上の幸せを惜しみなく追求して欲しいということです。「自分がどのフィールドで活躍したいのか?」「自分がもしこの会社に入社したとしたら、輝けるか?」そういう疑問にとことん悩み抜いたら、ガンガン行動をとってみるべきです。

言うまでもなく、金融ビジネスの競争力の源泉は志の高い人材が集まっているか否かに尽きます。
是非、志の高い学生さんは弊社(さてどこでしょう?笑)にチャレンジしてみて下さい!

2011年10月21日金曜日

自分という物語



近況報告

 突然ですが、私は生きています(笑)。 元気です!もうかれこれ4ヶ月の更新ぶりですね。
環境が変わり忙しかったのと、プライベート過ぎたら書けないし、公にしてはならないこともあるので...という中で、中々ブログ更新出来ずにおりました。メモ書き程度や呟き程度であれば、考えた事感じた事を気楽に書けるのでTwitterでは呟き過ぎている日々なのですが...。

 さて話は変わって、この度少しだけ2013年度卒対象の採用活動について、助っ人として携わることとなりました。最近、リアルでは知人の後輩、ネットではTwitterを通じて就活生からキャリア相談を受ける機会が増えて来ました。来月には朝活で知合いの方に招かれてイベントにも関わらせて頂く予定です。
個人的に活動に関わらせて頂いて幸せなのは、仕事環境として上司や同僚からも学ぶのは勿論、将来の優秀な部下からも学べる環境であるならば、創造的な企業組織になるだろうし、それに関われるのだと思うと楽しみで仕方ありません。


物語性のある人生

 一つだけ、本ブログで就活アドバイスというか、私が胆だと思う考えを紹介したいと思います。そして、これは就職活動のみならず普段の日常生活や、人生についてまでも深く関わる考え方だと思いますので、私自身の日々の反省も踏まえて書こうと思います。
 それは大事な時に「自分という物語」をきちんと語れるか否かについて。その物語についての人々や企業からの共感度によって、人々からの支援や企業からのオファーレター数が変ると思うということです。
 ここでいう「物語」とは、自分が登場人物であり、自分が何者で、今まで何をしてきて、これから何をしたいのかという未来をも示唆する予告付きの映画の様なものです(笑)。その物語は深く何かに自分が夢中に打ち込めるものを見つけて、それに没頭した経験や、広く未知との遭遇によって新しい世界や価値観に出会っていく予感をさせる経験があればある程、物語の豊かさが増します。
 さらに会社にも会社の物語を持っていて、就活生自身の物語シナリオとマッチするか吟味しますし、時代とともに、または会社の成長ステージによっても会社の物語シナリオが変わるでしょう。企業はその物語に登場する人物に”あなた”がいるべきかを考えています。


実はこの「物語」が非常に難しい。

 私自身新しい環境になって、日々忙しくさせてもらっている中で、自分の生き方は離散的なのではないか、何か連続的で繋がりがあって生きているのか…。自分のバックグラウンドは何で、何故今ここに立っているのか…。そう思うのですからもう大変(笑)。自分自身の歩みや考えの変化を追うのに苦労します。多分、それが普通なのかな。
 けれども詰まる所、その物語こそが自分の全てであって、この「自分という物語」がきちんと語れるか語れないかで、内定はおろか、配属後のキャリアパス、はたまた転職、人との関わり方までも影響するのではないでしょうか。勿論「自分の物語」を意識し過ぎた生き方だと、想定外の状況になった時にそれは破綻してしまいます。人生における大きな決断の際に「整理出来ているといいね」という程度のものです(笑)。 

Connecting the dots

 最近亡くなられたSteve Jobs氏の卒業スピーチの話の中で、「点を繋げること」がとても印象的であったのを思い出しました。彼の場合は、大学中退経験を挙げてこう語っています。

“私は中退していて普通の授業を受ける必要はなかった ので、文字芸術の授業を取ってその手法を学んだ。多くの美しいフォントや、文字の組み合わせによって文字間のスペースを変えること、さらに素晴らしい印刷物は何が素晴らしいのか等を学んだ。それは美しく、歴史的で、科学では捉えられない芸術的繊細さで、私には魅力的だった。これらのどれも私の人生で実際に活用する見込みはなかった。しかし10年後最初のMacを設計している時にそれが私に蘇ってきた。そしてそれをすべてマッキントッシュの設計に取り入れた。Macは美しい印刷技術を組み込んだ最初のコンピューターとなった。(中略)

先を見通して点を繋ぐことはできない。振り返って繋ぐことしかできない。だから将来何らかの形で点が繋がると信じなければならない。”

 この名スピーチは、受け取る側に様々なインスピレーションを与えてくれますが、「人生の役に立ったり糧になる事は後でしか分からないけれども、頑張らなければ点と点を繋ぐことすら出来ないよ。」と述べているようにも感じられます。先を見通して点を繋ぐなんていう器用な事は出来なくても、1つ1つのことに自信が持てるまでそれなりに真剣に取り組んだからこそ、最後に線で繋がった訳です。

後となって考えれば最良の選択という場合があるんですね。
振り返らないとその出来事の繋がりが解釈出来ない。
でもいつかは繋がるのだと意識して頑張り続けていなければ実を結ばない。
人生というものは不思議なものです。


 さて最後に、ご存知かもしれませんが、今年は経団連の「倫理憲章」見直しに伴い、採用広報活動が12月から、選考活動開始が4月からスタートします。就活生は短期化で焦るし、経団連に属さないベンチャーや外資は今まで通りなので、経団連に属する大手企業は採用活動の煩雑さに苛まれ、さらに良い人材が外資へ流れてしまうという事態になることが予想されます。本当に企業は自分で自分の首を絞めるだけですし、「一体誰得?」という状況なのですが... (人事部員の方々もお疲れ様です)。
従って、例年よりも2ヶ月間の採用活動短期化に伴い、早期に就職活動生自身が集中して臨まなければならなりません。

その時に、就活生が一番意識しなければならないもの。それは、「自分という物語」をきちんと語れるかに尽きると思います。私は会社説明会等の場面で、私自身の「物語」をお話させて頂く予定なので、お会いした時はよろしくお願いします。

2011年6月20日月曜日

UFJH・MTFG vs STBC・SMFG(昔話)

ざっくり言うと、
“漢達に婚約を迫られた姫が、真の貴公子と結ばれるストーリー”
と、まとめられるだろうか?

200510月に起きたUFJホールディングス(以下UFJH)と三菱東京フィナンシャルグループ(以下MTFG)との統合は、金額規模と金融業界再編、それまでの買収攻防という観点において、非常にドラマティックな事例だと言える。 この事例は非常にデリケートだ。時代背景としては不良債権処理問題の傷跡・日本MAマーケットの黎明期・法律の不整備等々という頃。その意味で、現在で同じ判例が起きても同じ結果には成りにくい“古典でもある。たった10年もしない前の話であるのにも関わらず。。。




何故、UFJホールディングスは結婚相手を探し求めていたのか

そもそも2001年に旧三和銀行と旧東海銀行、旧東洋信託との合併で生まれたUFJH。実はこの合併によってダイエーへの合計融資額が突出して大きくなっていた。UFJHはダイエーなどの不良債権処理のために自己資本比率が削られる状況になってしまった。その結果、残念ながらUFJ銀行の20043月期決算における自己資本比率は、国際業務を営むのに必要な8%を下回る寸前まで低下。その後の利益回復が実現出来なければ信用不安を誘発する恐れもあった。
そこで当初、UFJHは信託部門を住友信託へ3,000億円で売却し、ひとまず自己資本比率8%維持し、同年秋に4,0005,000億円規模の増資を行う自力再建策を考えていた。



住友信託の思惑

住友信託は、既に公的資金を完済し財務状況も健全。メガ信託として業界の主導権を握るための「攻めの戦略」としてUFJ信託買収を検討していた。
2004年5月21日にUFJH信託部門の売却と共同事業化に関する基本合意書が締結された。
併せて、5月下旬からUFJHは大手証券会社を主幹事に指名して、水面下で増資の準備を始めた。



「やっぱり貴方じゃ私を救えないかも」

ところが2004年6月18日、金融庁によりUFJHに対して業務改善命令を発動されたことで、事態は急展開を見せることになる。この日から、UFJHはコンプライアンスに厳しい海外の機関投資家からの資金調達が困難となった。さらにもし金融庁が刑罰を求めていれば、事態はもっと悪化していたに違いないが、金融機関への処分は業務改善命令などの行政処分に止まっている(謎だが預金者保護だと思う)。少なくとも、このままでは住友信託への信託部門売却を経る自主再建は厳しくなった。



三菱東京との両想い

対してMTFGとの統合を選択する魅力とは、その豊かな財務力である。MTFGは、公的資金を完済している上、1兆5,000億円という豊富な剰余金を積み上げており、自己資本比率や不良債権比率も健全な水準であった。UFJHに注入されていた公的資金は、(統合してできる新グループとなれば)早ければ僅か1年間で、必要な剰余金を積み上げることができる計算だった。
MTFGとしての思惑は収益力とリテール強化。大企業比率が高いとされていた貸し出しポートフォリオの是正などが経営上の課題であるとされていた。
そうしてUFJHは、住友信託との統合をやめてMTFGとの統合を受け入れる。



怒れる漢

住友信託銀行は、当初基本合意書しか締結されていないにも関わらず最終的な売買合意があったと主張。UFJ信託を買収できていた場合の逸失利益として1,000億円の損害賠償を求めた。しかし、それは東京地裁判決で一蹴された(その前の独占交渉権を巡っても敗訴している)。
その理由は単純。独占交渉権はあくまで買収を交渉する権利であり、結果買収自体の成立を確約するものでないからだ。従ってその権利破棄による交渉権者の損害は、買収成立した場合に得られていたであろう事業上の利益でなく、せいぜいFAFeeぐらいがその範囲内なのである。

最終的に高裁提示の25億円支払で両社は和解合意。これは買収金額3,000億円の0.083%に当たり、欧米平均の3~5%より低いが、そもそも欧米での違約金は「最終契約」を破棄した場合のみなので、実際支払わなくてもよかったのではないか?とも思える。ただ、住友信託側が100億円前後での和解を水面下で打診したことをMTFG側が「金額の根拠が分からないし、株主に説明がつかない」と答えたのは至極当然だろう。(日経新聞20061122日)



三井住友FGの参戦

対して三井住友フィナンシャルグループ(以下SMFG)としては傍観出来ない状況だった。SMFGとUFJHとは関西地区を中心に店舗網が重複してシナジー薄だが、規模面でUFJHとの経営統合なくして他行に劣後してしまうという強い危機感があった。また同じ住友グループでありながら疎遠であった住友信託とUFJH統合についてアライアンスを組むことによるグループ再編をも画策していた。



SMFGのベア・ハグ作戦

ベア・ハグ:買収される会社の取締役が買収に反対だったとしても、高額な買収価格提示など、株主の利益上同意せざるを得ない様な買収の申し入れを出す。ここではSMFG8UFJHに対して行った統合申し入れを指す。

SMFGは、UFJHとの兼ねてからの直接交渉からUFJH株主を中心に統合メリットを訴える作戦に変更。SMFGが、UFJHの定時株主総会で、株主提案権を確保するために株式を一定取得したと発表。
しかし、残念ながらこのやり方では、一定の総会議題を提案することが出来ても、合併を総会議案として提案することは出来ない。両社ボードメンバー同士が締結する合併契約書の承認の形でしか、合併を株主総会に議題にすることが出来ないからである。
(では何故わざわざUFJHへの株主提案権を確保し、それを発表までしたのか?合併比率を明らかにしていなかったMTFGへの圧力かもしれないし、まさか罷免決議の提案まで考えていたのか?色々な憶測が生まれる。)

さらに、831日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に、「SMFGによるUFJH株式のTOBを準備中」と報じられたが、当時のSMFGには単独での資金調達が困難な金額であり、実現は難しかったと思われる。SMFGのFAであるGS背後にいるとの見方がされている。


対するMTFGのポイズン・ピル作戦の成功

ポイズン・ピル:ここではUFJ銀行がMTFGに対して行った優先株発行を指す。同優先株発行は、本当の意味での「ポイズンピル」ではない。

SMFGの提案に対するMTFGの対策は素早く、910日にUFJ 銀行の優先株式引受により7,000 億円の資本支援の実施を決定し、さらに同月29日に予定していた払込を同月17日に前倒しで完了。これによって、市場ではSMFGとUFJHの統合はなくなったとの見方が強まった。
UFJHが傘下の子会社(UFJ銀行)にMTFGを割当先に特殊な種類株式を割り当てた株式は拒否権付種類株式(会社10818号)を利用する黄金株である。
この優先株式の発行条件・付帯条項を含むことが可能だったのは、非公開会社であるUFJ銀行が増資主体であったからだ。仮に、「有利発行」に該当されるとしてもUFJBUFJHの完全子会社であり、優先株発行に当っては定款変更等のために特別決議を経ているので手続き上の瑕疵はない(勿論、MTFG側に課税受贈益が発生する可能性はあった)。
こうして上場会社であるUFJHではなく、非上場会社であるUFJBが発行する優先株に「UFJBの合併等につき種類株主総会で拒否権」を与えることによって、親密先(MTFG)を利用した新株予約権によらない種類株式によるポイズンピルを実現した。本件は日本では初めての事例とされる。




と、まぁかなり入り組んだ話ではあったが、UFJHがMTFGと統合出来たのは、「独占交渉権」を巡る裁判で勝ち取ったのと、非公開会社であるUFJBを発行体として「優先株式」が発行出来たということが大きいなと。。。金融庁のことは、知らない。


【参考文献】
「M&A最強の選択」服部暢達
「UFJvs.住友信託vs.三菱東京M&Aのリーガルリスク」中東正文
「日経新聞(20061122日)」
英フィナンシャル・タイムズ紙(2004年831


【使用データ】
日経NEED-FAMEデータベースにより上場廃止企業の株価をプロット

【備忘録】製薬業界のあれこれツイートまとめ

新薬創造といっても、もうモルモットでは実験しにくい難病だけが残されているという点で、生物化学界では困難な状況にある。だから医薬品業界のMAはファイザーモデルから、ブロックバスター系創薬が見込めるバイオベンチャーの争奪戦へ移行しつつある訳で、、less than a minute ago via HootSuite Favorite Retweet Reply



企業の効率的な経営合理化によって、予算や研究開発目的を意識し過ぎてセレンディピティ的創薬(心臓疾患の為のR&Dから偶然にもEDに効果を発見して発売されたバイアグラみたいな事例)が生まれにくくなる土壌となってしまったという功罪もある。less than a minute ago via HootSuite Favorite Retweet Reply



さらに、日本人口減少・高齢化→国家予算削減→医療費削減の中で「薬価」が最も手をつけやすい対象として世界比薬価のダウン率が高い。そうして日本政府は廉価なジェネリック医薬品を推進しているため、日本の医薬メーカーは否が応でも海外へ展開しなければ生き残れない状況に陥っている。less than a minute ago via HootSuite Favorite Retweet Reply



医薬品業界の「2010年問題」に見られたような、世界中の製薬企業が生み出した薬品は一斉に特許切れを迎えた。製薬企業各社の収益はジェネリックに喰われて激減してしまう。 未来は実績あるスピンアウト系ベンチャーに懸かっていると考えるのだけれども、果たして日本にその土壌があるのだろうか。less than a minute ago via HootSuite Favorite Retweet Reply

2011年5月28日土曜日

MAすると株価が上がる方法〜EPS変動分析とモラル・ハザード〜



一般的にMAが起こると「買収対象企業側」の経営合理化が進むと捉えられたり、TOBに応じるプレミアム殺到で株価が上がる現象が見受けられる。

しかし今回はEPS変動分析をもとに、MAすると「買手側」の株価が自動的に上がる方法を2枚のスライドだけで簡単に紹介したいと思う。なんか魔法の様な話に聞えるかもしれないけれども、買手にとってのMerger Planとして、MA出来るか出来ないかを左右する意思決定の定量分析であるため、極めて明確なVisionary Criteriaを与えてくれる。なんとなく「俺が経営した方が良いし、対象会社好きだし、高くても買うよ!」とかの判断にならないで済むのだ笑

これらのEPS変動分析の効用を理解すると、買収資金の調達方法(株式or借入)によって大きく結果が変ることが分かるし、歴史的にも、独占禁止法の適用が厳格だった1960年代の事業コングロマリット化や、2000年頃のドットコムバブル(ワールドコムエンロン)にもみられた、「とにかくPERが低い企業を注目して株式交換による買収」が流行った理由が分かると思う。(このお話はDCFやマルチプル、リアル・オプションなどの話は出てこないので知らなくても大丈夫^^)


実務上、EPS変動分析のプロセス自体は、MAコンサルや投資銀行などFAのお仕事として、DD等Fair Valuationを終え「さぁ、ではその企業価値を踏まえて、結局いくらまでなら支払うのが妥当なのか?」というFairness Opinionを会計監査・法律事務所へ書かせたり、自前で書いてリスクを負う段階。DD評価がEPS変動分析評価より高いと、よっぽどのシナジーを生む公算がない限り、本来ならば買うべきではなく、株主から反対されたり訴訟されるリスクがある。勿論、FAとしてはGOをオススメするのだが...。
少なくともEPS変動分析なくしてFairness Opinionは書けない。売手のFAならまだしも、買手として絶対必須だ。(お断りとしてPEファンドによる買収など、上場会社でない買手にとってEPS変動分析は余り関係ないので注意してほしい。)

<前提>
  • 株価=PER×EPS(アタリマエ)
  • 買手PERは一定とする
  • のれん代償却は無視(IFRSでなくなる見込みだし)
  • 対象会社のP/LStand Aloneとする。(実務ではシナジー加味)

前提を踏まえて、株価が上がるには(予想)1株利益EPSが増加すればいいことになる。
ちなみにEPSが増えることをAccretion(アクリーション、日本語では...増加?笑)。減ることをDilution(希薄化)という。だからMAの際にDilutionであればよっぽどのシナジー説明材料がなければ株主が反対するのだ。

上図は、例としてStand Aloneの買手・売手のP/Lをもとに4つのケースで買収を試みる。
数字の単位は百万円でも億円、十億円でもなんでもいい。
  1. 対象会社を価格   600で株式調達による買収想定
  2. 対象会社を価格1,200で株式調達による買収想定
  3. 対象会社を価格1,000で借入調達による買収想定
  4. 対象会社を価格1,500で借入調達による買収想定

株式調達だと金利払いは変らず、株数が増えることに注意し、逆に借入調達だと株数は変らないで、金利払いが増えることに注意してΔEPSを計算してみる。
すると、株調達Case1と借調達Case3では丁度EPSが変らない0となり、それ以上の株調達Case2と借調達Case4ではマイナスのEPSとなることが見て取れるだろう。つまりこれ以上だと、PER一定だとして買手自社の株価が下がるということになる。

従って、株式調達でMAするなら600までが限界、 
借入調達でMAするなら1,000が限界ということが分かった。


以上をきちんと数値毎に離散シミュレーションしてExcelでまとめてグラフ化したのが上図。グラフを見て気付かれるかもしれないが、借入調達のプロットは線形である。ΔEPSの式を買収価格の関数として求めると本当に1次方程式なので各自確認してほしい。(また株式調達においては簡単な反比例の方程式となる。)さらに、それを各自確認出来れば、ΔEPS=0のときの買収価格が求まるので、純利益を割ったBreak Even PERも定まる。
実は、きちんと計算すれば、
B.E. PERとなる株式調達: 売手対象のPER=買手自社PERの時
B.E. PERとなる借入調達: 売手対象のPER=買手税引後金利の逆数(33.333倍)の時
となることを自分で確かめて欲しい。この数字はかなり直感・暗算として重要で、相手PERがとにかく33.3倍までなら借入でMAしようと決まるし、株式調達であれば自分のPERがB.E.なのだから、自分の株価(正確にはPER)を高く保つことがMA競争で勝つポイントにもなることが分かるし、売手対象会社側から見たら、"買収防衛"のためにもPERを高く保たねばならないことを示唆している。
ちなみに、ここにも一般的にコーポレートファイナンスにみられるような【株主資本コスト】>【負債コスト】の現象が見られるので、ちょっとした証明にもなるのではないだろうか。


以上からだと、なんとなく借入調達の方がハードルが低いように思えるかもしれない。ただ、常に借入調達がベストではないので注意して欲しい。買手PERが売手PER(=33.3%)よりカナリ高ければむしろ株式調達が良いことを、自分でExcel等でいじって確認してくれればと思う。



 以上を踏まえた上で、ただし書きをさせてもらうと、、
PERは予想純利益により算定されるので、買手が意図的に操作することもありえるので注意が必要である。これは"モラルハザード"の観点で重要なことだと思う。株式調達の場合、下方修正などで買手の予想純利益をわざと下落させると、買手PERが上昇する。売手PERが一定ならばAccretionがどんどん進んでしまうのだ。
「でも、下方修正で公で株価さがったら結局B.E.に下がるのでは?」と思われるかもしれないが、今期予想は言っても、来期・再来期予想は絶対言わないだろう。結局向う何年かのDDバリュエーションを基に計算されているのだ。社長が言っても、MAが終わる頃にはマーケットは評価を補正しているだろう。ましてや会議室での話なら誰にも知られない

この"誰にも知られず"にPERを上げてしまうことは中立的なMAという投資意思決定を阻害してしまう。
だからこそ、FAは職業倫理上「フェア」でなければならないのだ。